分析化学系の会社は割と学生に人気です。
大学で学んだ知識がそのまま活かせたり、『環境分析』などのクリーンなイメージがあるからでしょうか。
女子学生からも一定数の人気があります。
また分析化学は学問的にも基礎的で歴史が有り、非常に重要であるのみならず、社会的にも必要不可欠な存在です。
しかし、個人的にはあまり分析化学業界で働きたいとは思いません。
Contents
私があまり分析化学の業務をしたくない理由
私個人的な意見を言えば、実はあまり分析化学の業務内容をやりたいとは思いません。
それには色々理由があります。
ミスに対してシビアである
私があまり分析化学の仕事をしたくない一つの理由が、『ミスできない』という厳しさにあります。
勿論、どんな仕事でもミスは良くありませんが、分析業務では特にそれがシビアです。
- データの写し間違い
- 試薬分量の間違い
- 実験操作の間違い
- データの解釈の間違い
など、些細なものから割と重大なものまで様々ありますが、分析の作業というのは大抵膨大な量であるため、確率論的に言って、いくら注意してもどこかで必ずミスをします。
しかし、会社というのはミスした人間には厳しいものです。
分析会社の『価値』というのは『正確な分析データ』なわけで、そのデータが間違っていたことが発覚すると会社の信用問題に発展します。
豊洲市場で後になってベンゼンの残留が発覚した例のように、社会問題に発展することもあります。
なのでミスしてはいけないというのは分析会社にとって至極当たり前のことなのですが、そうであるからこそ、僕はあまりやりたくありません。
激務薄給の会社が多い
分析会社のレベルにもよりますが、分析業務は『価格競争』になりがちです。
例を言えば、液中の『鉄イオン濃度の分析』などは原子吸光などの装置さえあれば、誰でもできます。
そのため、結局のところ如何に安く分析データを出せるかで、売り上げを伸ばすことになります。
その結果、大量の仕事をしなければ社員の給料を賄えないという事態になっています。
ただこの辺は分析会社のレベルにもよります。
『東レリサーチセンター』や『化学物質評価研究機構』など、レベルの高い組織では、高額な分析料金をとって、複雑な分析を行っているところもあります。
(内容によりますが、一検体の価格が100万円など)
しかし、大抵の分析会社は価格競争に晒され、膨大な量の分析を安い値段で受け持っています。
加え、上記のような会社であってもやはり業務量は多く、残業が常態化しています。
高度な化学的能力が必要
分析化学を本気でやろうと思うと、かなり高度な化学知識が必要です。
特に未知試料の分析などを行うには、化学物質の性質や、分析装置の原理、詳細な化学反応論、IRやNMRなどのデータ解析、熱力学的な考え方、といった化学の様々な分野の能力が必要です。
また、『統計的』な手法も知っておかなければなりません。(誤差の考え方など)
しかし、そこまでできるようになっても、給料は製薬会社や大手化学メーカー・エネルギー関連企業などと比べると低いのは否めません。
ルーチン作業員になる可能性
一方で、ただルーチン的に作業をこなすだけの『作業員』になってしまう可能性も多々あります。
本当は、化学分析という『難しい』業務を遂行するには、本格的な能力が必要なのですが、実態はそうはなっていない場合が多いです。
確かに、日々のルーチン的な分析を行うだけなら、ただ忠実に手を動かすだけの人材というのも必要です。
実際に、分析会社の社員の何割かはそうなっていると思います。
本当は、トラブルが起こったときなどに考察できるだけの化学的知識・思考力は必要なのですが・・
データ解析で迷う場面が多々ある
やはり悩ましいのがデータの解釈です。
ある分析によって『物質Xが検出された』という結果がでても本当にそう判断していいのかどうかというのはかなり悩む場合が多いです。
化学は微量の世界を扱う学問であるので、本当に少量の不純物によっても結果が変わります。
例えば『アルデヒドを検出する』という分析手法があったとします。
- 溶媒が水かどうか
- 水ならpH範囲は適正か
- アルデヒド周辺の置換基による影響は無視できるか
- イオン強度による影響はないか
- 溶剤が混入していても分析精度は保証されるか
- アルデヒド以外とも反応してしまう可能性はないか
- 酸化還元反応で劣化してしまった可能性はないか
などなど、色々と考えることがあり、確定的に『こうだ』と言えることは相当少ないです。
にも関わらず、客先にはレポートを明確な結果を提出しなければなりません。
高額な分析料金を頂いてる案件程、『この分析手法ではこのような結果になりました』という『逃げ』は通用しません。
分析会社の良い所
とは言え、分析業界で働く良い面も当然あります。
化学のスペシャリストになれる
他の業界ではどうしてもその分野に特化したスペシャリストになちがちです。
例えば自動車メーカーの研究者なら、自動車用のリチウムイオン電池などの自動車に特化したバッテリーの第一人者など。
化学分析の業界に居れば、『分析化学』という広い括りで専門家になることができます。
他の業界から信頼される
化学分析で本当に実力のある人なら、データの解釈や分析可能かどうかの技術相談などで、非常に重宝されます。
分析化学のスペシャリストは応用範囲が広く、化学業界ならどこにいっても通用します。
今後化学分析の社会的な需要は増加する
化学物質による汚染への取り組みは年々厳しくなってきています。
世の中的にも健康への関心が増加しており、化学物質に対する規制は益々厳しくなります。
そのような社会での分析会社の役割というのは、より重要視されるのではないかと思います。
まとめ
化学分析の会社には高度な能力が必要でなおかつミスが許されない厳しさがあるにも関わらず、給料はそれほど高くない傾向があり、個人的にはあまり積極的には働きたいとは思いません。
一方で、分析化学という化学の基礎的な分野におけるスペシャリストになれる職種でもあり魅力もあります。
本当に化学が大好きな人や修行(!)したい人、体力がある人、分析的思考が好きな人には向いていると思います。