重合を学習すると必ず出てくるのがこのQ-e値です。
特にラジカル重合の反応で重要です。
Q値とe値はそれぞれ重合に関するパラメーターで、反応の解析に役立ちます。
Contents
Q値とは
Q値は『ラジカルの安定性』に関する数値です。
この値が大きければ大きいほどモノマーのラジカルは『安定』で、小さいと『不安定』ということができます。
この値によって、
- ラジカルが発生しやすいか?
- ラジカル重合の反応性は大きいか?
という重要な2点がわかります。
Q値とラジカル発生の関係
Q値が大きいほどラジカルは安定であり、ラジカルが発生しやすい傾向にあります。
例えばスチレンはQ値が1.00(スチレンがQ値の基準値である)と比較的大きいのですが、これは『フェニル基』による共役安定化によってラジカルが安定化するためです。
そのため、スチレンは比較的低い温度でも『ラジカルが発生』します。
Q値とラジカル重合の反応速度の関係
勘違いしてはならないのが、Q値が大きいことはラジカルが安定であること意味し、これは逆に言えば反応性が低いことを意味します。
→成長ラジカルの速度定数kp値はQ値が大きいほうが小さくなる傾向にある。
→成長ラジカルが置換基の共役安定化により安定化するスチレンやメタクリル酸エステルの場合、速度定数kp値は小さい。
つまり、『Q値が小さい』モノマーであればあるほど、ラジカル重合の反応性は大きいと言えます。
例えば酢酸ビニルはQ値:0.026と非常に小さい値であり、ラジカルは不安定であることから、逆に成長反応速度定数kpは大きな値を取ります。
・Q値が大きい方がラジカルは生成しやすいが反応性は低い。
・Q値が小さいほうが、ラジカルは生成しにくいが反応性は大きい。
e値とは
e値とはラジカルの電気的な正負の値のことです。
極性と呼んだりしますが、電荷の偏りを示します。
置換基によって値が+になったり-になったりします。
(スチレンのe=-0.80が基準となっています。)
e値のプラスマイナスの意味
e値はラジカル周辺の置換基によって影響されます。
ラジカルの近くに電子吸引基が存在していたら、電子が吸引されるためわずかに+性を帯びます。電子供与基が存在していたら、ラジカルがわずかに-性を帯びます。
このe値ですが、『交互共重合』をしやすいかどうか考える上で重要です。
交互共重合
モノマー2種類(AとB)がある系で重合を起こしたとき、できるポリマーがABABABABABAB・・というようにAとBが交互になる場合を交互共重合と言います。
この交互共重合をしやすいかどうかを考えるときにe値を見れば、それがわかります。
すなわちモノマーAのラジカルがe値>0で、モノマーBのラジカルがe値<0のように互いに正負が逆なら、交互共重合が起きやすくなります。
またその値の差が大きければ大きいほど、交互共重合性が大きくなります。
交互共重合に関わる数式
kABというのは、モノマーAがモノマーBに反応するときの反応速度定数です。
PA:モノマーAの成長ラジカル(=A・)の反応性
QB:モノマーBの共役安定性
exp(-eA*eB)は、カッコの中身がプラスの方が値が大きくなるので、eAとeBの符号は逆の方がラジカルA・がモノマーBに反応する反応速度は大きくなります。
ただしこれで言えるのは、AラジカルとBモノマーの反応性だけです。
交互共重合しやすいかどうかは、BラジカルとAモノマーの反応性も大きくなければなりません。
交互共重合ポリマー:ABABABABABABABAB・・
結局、eAとeBの『符号が逆』で、かつ『差が大きい』ときに、交互共重合性は大きくなります。
詳しくは『反応性比』で学ぶことが出来ますが、このkABの数式を利用して簡単な式変形で示されます。
e値と反応速度
ちなみにラジカル重合において、反応速度に影響を及ぼすのは主にQ値ですが、Q値があまり変わらなモノマー間を比較すると、電子吸引基がある(→e値が正)方が、成長反応速度定数kpは大きくなる傾向にあるようです。
まとめ
・Q値はラジカルの安定性を示す指標
・e値はラジカルの極性(電気的偏り)を示す指標
・Q値は反応速度に関する考察に便利
・e値は交互共重合性に関する考察に便利
参考資料
Polymer Handbook (4th edition)
『高分子化学(共立出版)』で「多くのモノマーのQ値・e値がまとめれている。」と取り上げられている書籍(洋書)です。
高分子化学(第5版)
代表的なモノマーのQ値・e値だけで良い場合は、『高分子化学(第5版,共立出版)』に前述の洋書から抜粋があります。(p.76)
また、Q・eスキームの解説も簡単に記載されています。