沸点は分子間相互作用の強さを調べるのに有効です。
逆に沸点を調べることで、特定の分子構造が分子同士で相互作用するのかどうかを判定することが出来ます。
ちょっと、二重結合って二重結合の有る無しで分子間相互作用に影響を与えるのか気になったので、沸点からその影響を調べてみることにしました。
もしかしたら二重結合のπ軌道が芳香族のππスタッキングみたいに相互作用するのかな?と思って・・
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二重結合の有無は直接沸点に関与しない
例1 エチルベンゼン vs スチレン
エチルベンゼン:136℃
スチレン:145℃
エチルベンゼンとスチレンを比較した結果です。
違いはベンゼン環に結合したエチル基が単結合のみか、二重結合になっているかです。
結果は、二重結合ありのスチレンの方が高沸点という結果になりました。
この結果だけ見ると、二重結合が分子間相互作用を行っている可能性が考えられます。
しかし、沸点は分子の化学構造も関係してくるので、簡単に結論を出すわけにはいきません。
他の例も見ていましょう。
例3 エタン vs エテン
エタン:-89℃
エテン:-103.7℃
単結合しかないエタンの方が高沸点という結果になりました。
先ほどのスチレンの例とは、逆の結果です。
もしかしたら、エタンぐらいになると、分子量が小さ過ぎるため、水素2個のあるなしが沸点に効いてきて、二重結合による相互作用を打ち消してしまっているのかもしれません。
もう少し高分子量の化合物で見てみましょう。
例3 ブタン vs 1-ブテン
ブタン:-1℃
1-ブテン:-6.3℃
今度も、単結合であるブタンの方が沸点が高いという結果になりました。
ブタン vs 1-ブテンの結果により、またも否定されてしまいました。
さらに、分子量の大きい分子で見ることにします。
例4 ヘキサン vs 1-ヘキセン
ヘキサン:68℃
1-ヘキセン:63℃
この例でも単結合であるヘキサンの方が高沸点という結果になりました。
例4 オクタン vs 1-オクテン
オクタン:125℃
1-オクテン:122℃
この例でも同様です。
単結合 > 二重結合
まだ分子量が沸点に効いているのかもしれませんが、少なくとも二重結合がそれに打ち勝つほど分子間相互作用をするわけでは無いということがわかります。
(繰り返しになりますが、水分子は分子量18しかないのに沸点が100℃です。)
考察
二重結合があるからといって、沸点が高くなるというわけではないということがわかりましたが、ではなぜスチレンの場合は9℃も沸点が高くなったのでしょうか。
可能性としては、スチレンはベンゼン環に二重結合が直接結合しているので、π共役が大きくなり、ππスタッキング(相互作用)がより強くなったとことが考えられます。
他には、スチレンの場合は二重結合により炭素鎖の自由回転が阻害され、ベンゼン環同士のππ相互作用がしやすくなったことも考えられます。
エチルベンゼンでは、エチル基が自由に回転し、なおかつ水素も2個余計についているため、よりベンゼン間同士の相互作用を邪魔しやすい傾向があります。
しかし、計算したわけじゃないので、あくまで可能性というだけですが。
結論
二重結合の分子間相互作用は弱い
ππ相互作用ですら分子間力より少し強いぐらいなので、二重結合一個だけだと厳しいようです。