化学系の学生は大学に入ると高分子の授業で『重合』の授業を受けると思います。
ラジカル重合だったり、もしくはアニオンやカチオン由来の重合など、色々な概念が登場します。
しかし、なぜ『重合』は学問的に重要なのでしょうか?
この記事では重合の技術が世の中で必要とされている理由を、簡単に説明します。
プラスチック製品の製造に使われる
樹脂(プラスチック)と言うと、今更説明するのもはばかられますが、世の中の至る所に出回っていて、例えば車のバンパーや、スーパーの袋、シャンプーの容器、プラモデル、電化製品の外装、メガネのレンズなどに利用されています。
樹脂がこれほど世の中に使われている理由は『成型しやすい』『丈夫』などの性質のためです。
現在も、化学的性質や色などの外観などについて、様々な特徴を持った樹脂製品を作ろうと、樹脂製造メーカーなどが研究開発に勤しんでいます。
ここに重合の技術が使用されています。
例えば、リビングラジカル重合という技術で分子量を制御することで品質を上げたり、モノマーに色々な官能基を付与してこれまでと違った性質の高分子を重合で合成したり。
参考:身の回りのプラスチック
タイヤの製造に使われる
タイヤは広く言えば『ゴム』の一種で、樹脂(プラスチック)と同じく高分子なので仲間とも言えますが、一応違うものです。
(わかりやすい説明はこちらのサイトで説明されています。)
種類 | 固さ | 熱をかけた時 |
プラスチック | 弾力がある | 固まる(熱硬化性) |
ゴム | 多くの場合、固い | 柔らかくなる(熱可塑性) |
そしてゴムには用途によって、様々な種類のもが研究開発されて市場に出回っています。
色々な特徴をもったゴムの開発も、研究者による重合試験のタマモノです。
色々な需要があるので、それに適合できるように、メーカーではゴムの重合試験が行われています。
接着剤にも重合が関与する
接着剤は色々なタイプがありますが、中には重合により接着するモノがあります。
瞬間接着剤の類です。
接着剤というのは普通は『水素結合』や『ファンデルワールス力』などの分子間相互作用により、接着力を発揮する場合が多いですが、中にはアニオン重合などの重合によって接着するタイプの接着剤があります。
原理的には、接着剤が重合し高分子になることで、それまで液状でサラサラだった接着剤の粘度が上がり固くなり、液体というより固体に近い状態になります。
それにより弾性率が上がり、接着作用を示します。
接着剤の接着力を決める因子の一つに、接着剤自身の弾性率(凝集力)があります。
重合が起こると粘度が上がり、弾性率は激しく増加します。
それにより、接着剤が容易には変形しなくなり、強固な接着作用となります。
モノの『変形しにくさ』です。
物体に力を加えた時に、ひずみ(=変形)にくいものほど、弾性率が高くなります。
弾性率 = 応力 / ひずみ
医薬品にも重合が活躍
医薬品の中には、重合によりポリマー化することで活性を示す医薬品があります。
『高分子医薬品』と呼ばれていますが、
- モノマーでは活性を示さないものが、ポリマー化することで活性を示すようになる
- 元々モノマーの状態で活性があったものが、ポリマーとなることでさらに活性が上がる
場合などがあるそうです。
高分子だけど重合とは無縁のもの
高分子の製造に関して、重合の技術が使われることはわかったと思いますが、高分子だったら全て重合により製造しているというわけではありません。
一部の高分子医薬品は重合とは無縁
先ほど、『高分子医薬品』について説明しましたが、最近は高分子医薬品の中でもバイオテクノロジー発の医薬品が流行しています。
- 重合により得られたポリマー型の医薬品
- 核酸医薬品
- 抗体医薬品
- タンパク質性医薬品 など
このうち②~④は遺伝仕組み替えなどのバイオテクノロジーにより作られる医薬品で、ラジカル重合などの『重合』とは無縁の製造方法です。
まとめ
世の中の様々な場面で、重合により製造された高分子製品が使用されています。
特に最近は、マイクロプラスチックなど環境問題が指摘されているなど、生分解性プラスチックなどの、環境に配慮したプラスチックの研究開発が急務となっており、より向上した技術が必要とされています。
より経済的な重合方法の模索や、新しい性質の高分子の開発など、重合技術の革新はこれまで通り求められます。
既にプラスチックなどの高分子製品で身の回りは溢れていますが、ますます重合技術は必要とされます。