総合化学大手の住友化学の2020年度決算から事業状況について株主レポート等からまとめました。また、2021年度の見通しなどについても確認しました。
私も株式のポートフォリオに持っている住友化学の事業内容の理解と、今後の経営戦略について俯瞰しました。
住友化学の事業ポートフォリオ
2020年~2021年における住友化学の事業カテゴリーとしては以下の6つ。
部門 | 事業内容 | 売上 (2020年度) |
石油化学 | 石油化学品/無機薬品/合繊原料/有機薬品/合成樹脂/メタアクリル/合成樹脂加工製品など | 5,893 億円 |
エネルギー・機能材料 | アルミナ製品/アルミニウム/化成品/添加剤/染料/合成ゴム/エンプラ/電池部材など | 2,452 億円 |
情報電子化学 | 光学製品/半導体プロセス材料/化合物半導体材料/タッチセンサーパネルなど | 4,318 億円 |
健康・農業関連事業 | 農薬/肥料/農業資材/家庭用・防疫用殺虫剤/熱帯感染症対策資材/飼料添加物/医薬化学品など | 4,230 億円 |
医薬品 | 医療用医薬品/放射性診断薬など | 5,465 億円 |
その他 | 電力・蒸気の供給/化学産業設備の設計・工事監督/運送・倉庫業務/化学分析事業など | 511 億円 |
農業関連を起源にもち、古くから肥料・農薬関連が強い。国内では最大手。
また、私は住友化学と言えば石油化学というイメージだが、伝統的に石油化学も強い。
(総合化学メーカーと言われるので当然ですが。昔エチレンプラント持ってました。)
2020年度の各部門決算
コロナ禍で一番苦しい時期だったにも関わらず、増収(+612億円)を達成。
コア営業利も増益し1,476億円(+149億円)。
各事業の利益増減要因
石油化学 (コア営業利益:+145億円 → -120億円)
新型コロナによる経済活動の落ち込みが影響し、自動車関連用途の合成樹脂が出荷が減った。加えて、原料価格の低下により石油化学品の売上が低下した。
エネルギー・機能材料 (コア営業利益:+203億円 → +203億円)
新型コロナによる経済活動の落ち込みが影響し、自動車関連用途のリチウムイオン2次電池用セパレータや合成ゴムなどの出荷が減少した。しかし、原料価格下落に伴う交易条件の改善により、コア営業利益は前期とほぼ横ばいだった。
情報電子化学 (コア営業利益:+251億円 → +397億円)
半導体プロセス材料である高純度ケミカルやフォトレジストは需要増加した。
新型コロナによる”巣ごもり需要””在宅勤務”を背景に、ディスプレイ関連材料が増加。
これらによりコア営業利益は前年より+146億円の増加。
健康・農業関連事業 (コア営業利益:+21億円 → +315億円)
農薬は昨年買収したニューファーム社(南米)により販売が増加した。
またインドにおいて出荷が堅調に推移した。
またメチオニン(飼料添加物)の市況回復、および交易条件の改善や海外農薬の出荷増加により、前年比プラス295億円。
医薬品 (コア営業利益:+753億円 → +717億円)
前期に販売を開始したエクアおよびエクメット(2型糖尿病治療剤)が通年で寄与した。
北米でラツーダ(非定型抗精神病薬)の販売が増加、レルゴリクス関連の収益も寄与した。
しかしスミトバント社およびその傘下の子会社の費用が通年での負担となり、販管費、一般管理費、研究開発費が増加した。その結果、コア営業利益が前年比マイナス36億円。
その他 (コア営業利益:+88億円 → +128億円)
その他事業トータルで前期比プラス40億円。
事業の進捗状況
2020年度における各部門の進捗状況や取り組みやについて。
各部門の進捗・取り組み
石油化学
ラービグ第二期計画が2020年9月に終了し、安定稼働を継続した。
その他、「脱炭素」「循環経済」の実現を目指し、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルの技術開発を進めた。
エネルギー・機能材料
次世代2次電池として注目されている”固体型電池”の分野において、京大と産学共同研究講座を開設した。
サンプル合成、性能評価を通じ、固体型電池の共同開発を行った。
情報電子化学
半導体材料事業で、フォトレジストの新工場稼働を開始し、生産能力増強を決定した。
さらに最先端フォトレジストの研究開発強化のため、新棟を建設することにした。
光学機能性フィルム事業では、有機ELの高画質化に寄与する”塗布型位相差付偏光フィルム”の販売が本格化した。
健康・農業関連
南米農薬事業では、順調に買収した企業との統合プロセスが進んだ。
新規殺菌剤インディフリンの日本と北米での上市を行った。
天然物由来の成分を活用した微生物農薬、植物生長調整剤などのバイオラショナル事業に特化した販売組織である「サステナブル・ソリューション・ビジネスユニット」をグローバル展開した。
医薬品
ロイバント社から獲得した新剤の開発において、着実な進捗がみられた。
今後飛躍的な成長が期待される再生・細胞医薬分野でのCDMO(受託事業)において、大日本住友製薬との合弁会社であるS-RACMO株式会社を設立した。
その他の取り組み
新型コロナウイルス感染症への対応として、アクリル板の供給、治療薬レムでシビルの原料供給を実施。
ラービグ(サウジアラビア)のプラントについて完工。
健康・農業関連部門にて大型M&Aにより買収したニューファーム社の農薬事業について、順調に進捗。今後は新規殺菌剤インディフリンの販売に関してグループのシナジー効果を発揮できるようにする。
2021年度の戦略
①「次世代事業の創出加速」
②「デジタル革新による生産性の向上」
③「事業ポートフォリオの高度化」
④「強靭な財務体質の実現」
①については、「環境負荷低減」「食糧」「ヘルスケア」「ICT」の4つを重点領域とする。特に社会の気候変動に対する関心の高まりや、コロナ禍のよる健康意識の高まりを受け「環境負荷低減」「ヘルスケア」には特に注力する。
②については、AIやIoTの活用、デジタル革新により生産性向上に取り組む。
その他
温室効果ガス(GHG)削減
GHGを2030年度までに30%削減、さらに2050年度までに57%削減(2013年度比で)の目標を設定。
そのための取り組み例には、
- 愛媛工場内にLNG基地を建設など。
- 二酸化炭素の分離・転換
- ケミカルリサイクル
ケミカルリサイクルとは、廃プラスチックの化学原料としての再利用など。
住友化学の強みのリチウムイオン2次電池セパレータも、電気自動車の部材として使用されることを通して、温室効果ガス削減に貢献。
まとめ
住友化学は2020年度コロナ禍が一番厳しかった年においても黒字を達成し、なおかつ前年よりも好業績だった。
石油化学部門など景気敏感系の部門は厳しいところもあったが、その他半導体関連や農業、医薬品など、底堅い事業の強さが目立った。
今後の経営方針としては、既存の事業を踏襲しながらも、脱炭素社会に向けた取り組みも一層行うようである。