クリーンなエネルギーとして注目を集める水素。
燃やしても二酸化炭素がでないことから、温室効果ガス(GHG)削減のための切り札として期待されています。
水素を燃料に使った自動車(FCV)もトヨタなどから市販されています。
しかし現状、課題が多いことでも知られています。
この記事では、水素の製造方法について紹介したいと思います。
Contents
水素の製造方法
水素にはいくつか製造方法があります。
それらについて紹介します。
番号 | 方法 | 現状の生産力 |
① | 天然ガスの改質 | ◎ |
② | バイオマスの改質or発酵 | × |
③ | 水の電気分解 | × |
④ | 製油所や製鉄所からの副生成物 | △ |
⑤ | 苛性ソーダ製造時の副生成物 | △ |
*他にも「水の熱分解」など、研究段階の方法もあります。
現在の主流は「①天然ガスの改質」です。
ほとんどこれによって水素を得ています。(50%程度)
「②バイオマス「③水の電気分解」」は、コスト的に不利なのでほとんど活用されていません。
水素社会の到来のためには、現状「天然ガス」の活用が重要となります。
「④製油所や製鉄所からの副生成物(としての水素)」について、ここで出た水素はほぼ全て工場内で活用されます。なので市販に回す余裕はありません。
例えば石油精製工場では接触改質装置にて、シクロヘキサンをベンゼンに変換するなどしますが、その際に水素が出ます。その水素は、ほぼ全て水素化脱硫装置や水素化精製装置にて脱硫や脱窒素のために使用されます。
「⑤苛性ソーダ製造時の副生成物(としての水素)」について、これは市販にまわす余力があるようです。製造時に高純度な水素が得られます。
ただ規模的に小さいため、天然ガスの改質によって得られる水素には及びません。
原理
①天然ガスの改質
天然ガスに含まれるメタンなどのガスを、水と加熱して水素を発生させます。
2段階で水素を取り出します。
・CH4+H2O→CO+3H2 (-206KJ/mol)・・(水蒸気改質反応)
・CO+H2O→H2+CO2 (+41KJ) ・・(シフト反応)
水蒸気改質反応は700~850℃(加圧)で反応させる必要があります。
シフト反応は発熱反応であり低温で進行します。ただ低温による反応速度の低下を金属触媒で補う必要があります。
問題点
天然ガスを水素に変換する分、エネルギーに無駄が生じます。
CO2も排出してしまいます。
②バイオマスの改質
バイオマスを燃焼させ、メタンや一酸化炭素などのガスを発生させる。
そのあと水素を取り出す方法は、天然ガスの改質、シフト反応と一緒。
下水汚泥などをメタン発酵することによりメタンガスを発生させる。
そのあと水素を取り出す方法は一緒。
・CH4+H2O→CO+3H2 (-206KJ/mol)・・(水蒸気改質反応)
・CO+H2O→H2+CO2 (+41KJ) ・・(シフト反応)
問題点
バイオマスの量がかなり限られています。
加えて、バイオマスを水素に変換する分、エネルギーに無駄が生じます。
CO2も排出してしまいます。
③水の電気分解
水に電気を通して水素と酸素を発生させる方法です。
アルカリ水電解法と固体高分子型水電解が実用化されています。
・2H2O→2H2+O2
化石燃料由来の電気を使う場合と、再エネ由来の電気を使う場合があります。
当然、再エネ由来の電気を使うことが求められます。
問題点
水を水素に変換する分、コストがかかります。
再エネ由来の場合は再エネ装置のコストが高い分、さらにコスト競争力が低下します。
④製油所や製鉄所からの副生成物
製油所 (&石油化学工場)
前述の通り、接触改質装置にて水素が発生します。
・シクロアルカン → BTX等のアルケン + 水素
発生した水素はほぼ全て脱硫や脱窒素のために使用します。
また後段の石油化学工場でも、ナフサクラッカーで水素が発生します。
発生した水素はほぼ全て燃料などとして使用します。
・ナフサ → エチレン等のアルケン + 水素
製鉄所
コークス製造時に水素が発生します。
発生した水素は、ほぼ全て工場内で燃料などとして消費します。
・石炭 → コークス + コークス炉ガス(COG)
・・COGに水素が50%程度含まれる
天然ガス由来など、発生したCO2を回収してなんとかクリーンさを保った水素を「ブルー水素」と言います。
問題点
発生した水素はすべて工場内で活用するため、市販する余力がありません。
水素エネルギーの課題
どの製造方法をとるにせよ水素には共通する課題があります。
それは、「余計なエネルギーが掛かる」ということです。
例えば太陽光発電で水素を作る方法について考えます。
太陽光で得た電力で、水の電気分解を行い、水素を製造します。
しかしその効率は100%ではないので、本来持っていた電力よりも、得られる水素の電力換算量は少なくなってしまっています。
加えて、その水素をアンモニアでもスペラ水素でもなんでもいいですが、運搬しやすいように別の化学形態に変換する必要もあります。しかしそこでまたエネルギーが必要になります。
さらに、それを外国から国内にタンカーで運搬しなければいけません。
天然ガスの価格高騰問題
天然ガスの価格高騰も問題です。
天然ガスはもともと結構クリーンな燃料です。
石炭に比べて、温室効果ガスの排出量が2倍以上も少なく、現在世界中で取り合いになっています。
その結果価格が高騰しており、天然ガス由来の水素はコスト競争力が長期的に低下する恐れがあります。
今後の予測
(経済産業省 資源エネルギー庁資料より抜粋)
今後、水素製造方法として主流になるのはどの方法でしょうか。
私は「電気分解(再エネ由来電気使用)」だと思います。
今、洋上風力が注目されています。
洋上だと景観に気を使う必要があまりないので、特にヨーロッパでは洋上風力が活発です。今後は日本もそうなるでしょう。
夜間、人々の活動が減るとともに使用する電力も減ります。
しかし風力は変わらないので、夜には電気が余ります。
その余った電気を活用して水の電気分解を行うと、完全に無駄のないクリーンな水素(グリーン水素)が得られます。
水素を活用して気候変動対策を本気で行うなら、余った再エネ由来電力で水素を活用するしか、方法がないのではないでしょうか。
水素なんて作らずそのまま家庭用に届けた方が、よっぽどエコです。