化学ではIR分析(infrared spectroscopy)というのを非常によく行います。
大学の実験講座や研究室はなおのこと、会社に入ってからもとてもよく使う分析手法で化学者とは切っても切れない関係と言えます。
これから化学を勉強する人はぜひ知っておいて欲しい分析手法の一つです。
この記事では化学者の強い味方であるIR分析について解説したいと思います。
IRの簡単な原理
基本的な原理は、ただの分光分析です。
つまり、IR分析では赤外領域の波長の光をサンプルに当てて、その吸収スペクトルを測定します。一種の吸光度測定です。
ここで使用する光は赤外光という種類の光ですが、なぜこの赤外光を使うかというと化学物質がよくこの種類の光を吸収するためです。
化学を習ったことがある人ならわかると思いますが、分子はC-C結合やC-H結合などさまざまな結合を持っています。
そして実はその結合というのは伸びたり縮んだりといった運動を行っているのですが、その運動に赤外光がエネルギーとして使われます。
そのため化学物質は赤外光をよく吸収するのです。
その結果、分子特有のスペクトルが表れ、固有の情報が得られます。
IR分析とは、赤外光を用いた一種の吸光度分析である。
IR分析によってわかること
IR分析で何ができるかというと、簡単に言えば化学物質の中身がわかります!
例えば、何かわからないサンプルを測定装置に入れてピッと測ると、「この物質はカフェインです」とか「この物質は砂糖です」などのように物質の同定ができます!
なぜそんなことが出来るかと言うと、コンピューターのソフトによるライブラリ検索によって似たスペクトルを検索できるからです。 そのサンプルのスペクトルとライブラリに保存されているスペクトルが似ているかどうかを見ることで、これは「カフェインだな」などの情報がわかります。
測定は数秒で終わるし、必要なサンプル量も非常にわずか(だいたい耳かき一杯分ぐらい)で大丈夫です。
にも関わらず、そのサンプルの中身がわかってしまうということで、IRという分析手法はとてもよく化学者に使用されています。
警察が行う科学捜査などにも必ず使われますよ!
IR分析ではわからないこと
先ほど、IRでは化学物質の中身がわかると言いました。
しかし中にはパッとはわからないサンプルもあります。例えば
- IRライブラリに保管されていない物質である場合
- 色々な物質の混合物である場合
といった具合です。
IRライブラリに保管されていない物質である場合
ライブラリに情報がない時は、完全に言い当てることは難しいです。
計算による化学構造の推定には限界があります(いくら複雑な量子科学計算を駆使しようが無理です)。
複雑な分子(例えばタンパク質)などの構造はIRではわかりません。
IRだけでは大ざっぱな構造しかわからない。
(OH基がある、アミド結合がある、カルボニルがある、などその程度)
色々な物質の混合物である場合
色々な物質の混合物であっても、同定は難しいです。
例えば、中身がわからないサンプルをバッと渡されて、「これの中身を当ててみろ!」と言われたとしても、混合体である場合は全てを言い当てることが厳しいです。
つまり「あ~これはアスパラギン酸ナトリウムとアセチルサリチル酸及びチロシンとナフタレンの混合物です!」みたいなことは無理だということです。
理由は2つあって1つはそもそも何種類の化学物質が含まれているのかわからない場合が多いので、コンピュータで計算しようにもできない。
もう1つは化学物質が混合すると相互作用によりIRスペクトルが変わるためです。
相互作用によりそれぞれの化学物質のIRが変わってしまうため、それらの単純な足し合わせをしたところで混合物のスペクトルになりません。
IRによる混合物の同定は難しい
まとめ
IRの良い点
- 単一成分なら同定できる可能性が高い
- 化学物質の情報がおおざっぱにわかる(官能基, 無機物 or 有機物 etc)
- 分子間の相互作用の有無なども解析できる
- 分析時間が短いのでとてもお手軽
- サンプルの量が少なくてOK
- 光を当てるだけなのでサンプルを壊さない(=非破壊)
IRの悪い点
- 混合物の場合、同定がほぼ不可能
- 細かい情報はわからない可能性が高い
- 詳細な構造解析は無理
IRの解析にも様々なテクニックがあって一概には言えないですが、基本的には大雑把な分析をしたいときに主に使われます。
化学をやっていると大雑把でもいいので情報が欲しいような場面が多々あるため、IRは非常に重宝します。