決算資料および株主通信により、三井物産の2020年度事業ポートフォリオ状況についてまとめました。
三井物産はこのコロナ禍において総合商社の中でも安定した利益をたたき出していて凄い会社ですが、具体的にどの部門が強くどの部門が足を引っ張っていたのか見ていきたいと思います。
概要
三井物産は三井系の中でも中核を担う企業ですが、今年度はコロナが大きく影響したにもかかわらず、ふたを開けてみれば3,355億円の純利益と、総合商社の中で2位となる好成績となりました。
昨年度の3,915億円からは14.3%下落しましたが、それでも王者の三菱商事でも1,726億円に転落した状況を考えてみても、三井物産の安定感は驚異的でした。
三井物産は「事業」と「地域」の2つの軸により組織を編成していますが、それらを取扱商品やサービス等の内容から7つのセグメントに分類しています。
鉄鋼製品 | 金属資源 | エネルギー | 機械・ インフラ |
化学品 | 生活産業 | 次世代・ 機能促進 |
セグメント別業績
今期(2020年度)
金属資源が相変わらず強いですね。鉄鉱石や銅などがコロナ禍であっても底堅い利益を創出しています。
カセロネス銅鉱山(チリ)などいくつかの権益を売却したりはしましたが、追加でコジャワシ銅鉱山(チリ)権益を取得するなど、鉄鉱石や銅に関しては積極投資を続ける予定で、今後も三井物産の主力の収益源となることは間違いないでしょう。
三井物産の中核事業と言えます。
昨期からの推移
セクション | 業績 (億円) | |
101期 | 102期 | |
鉄鋼製品 | 47 | 21 |
金属資源 | 1,833 | 1,799 |
エネルギー | 578 | 272 |
機械・インフラ | 894 | 459 |
化学品 | 223 | 435 |
生活産業 | 320 | 127 |
次世代・機能推進 | 146 | 502 |
鉄鋼製品
47億円→21億円 (-55%)
事業内容はモビリティ、インフラ、エネルギー、流通の4領域、例えば自動車向けプレス部品事業など。
自動車生産減少による操業率の低下などにより減益。
金属資源
1833億円→1799億円 (-1.9%)
事業内容は、鉄鉱石、銅、炭鉱事業などへの事業投資・開発・トレーディングなど。
豪州鉄鉱石事業の増益等があったが、モアティーズ炭鉱事業の減損や豪州石炭事業の販売価格下落などで減益。
エネルギー
578億円→272億円 (-52.9%)
事業内容は、石油や天然ガス/LNG、石炭、原子力原料などの事業投資や、低炭素社会実現に向けた分散太陽光や蓄電池、エネルギーマネジメントなどの次世代電力事業、水素、バイオ燃料などの次世代エネルギー事業など。
原油価格の値下がり等により減益。
機械・インフラ
894億円→459億円 (-48.7%)
事業内容は、発電事業、電力・ガス・水の供給、鉄道、物流インフラなど。
北米での自動車関連や、豪州での建設・鉱山機械関連事業は増益だったが、炭鉱事業、英国旅客輸送事業、鉄道車輌リース事業などによる損失で減益。
化学品
223億円→435億円 (+95.1%)
事業内容は基礎化学品、無機原料などの石油化学上流工程、機能性素材、電子材料、スペシャリティケミカル、農業資材、アニマル・ヒューマンニュートリションなどの川下領域など。トレーディング、農業資材関連が好調により増益。
生活産業
320億円→127億円 (-60.3%)
事業内容は、食料、食品、マーチャンダイズ、リテール、ウェルネス、ヘルスケア、医薬、ホスピタリティ、人材、ファッション、繊維など。
小麦や大豆関連事業は好調だったが、新型コロナによる食品、ファッション、サービス、病院事業等の停滞により減益。
次世代・機能促進
146億円→502億円 (+243.8%)
事業内容は、ICT、金融、不動産、物流など。
有価証券の売却、トレーディング、ICT事業などにより増益
一つ言えるのは、金属資源領域やエネルギー領域の純利益への貢献度が非常に高いということです。
全体としては+3,355億円の純利益と底堅い業績でしたが、部分部分を見ると生活産業の-60.3%純利益落ち込みなど、結構コロナでのダメージを受けているセグメントが多いことがわかりました。
今期の好決算のほとんどが、金属資源の底堅さに支えられた結果となっています。
事業の進捗状況
三井物産の最大の収益源である豪州鉄鉱石事業の維持・拡大の実施。
エネルギーでは米国Cameron LNG全系列の生産開始
西豪州のガス田開発投資判断
機械・インフラのIPP(発電)事業の進展
化学品の農薬・農業資材事業の進展
などを実施した。
金属事業におけるポートフォリオ組み換え(銅鉱山の売却と新規取得など)
脱炭素社会に向けたエネルギー転換としての量より質の追求、国内製糖事業の統合、アパレル事業の合併検討、ICT関連事業の合併、石油・ガス事業での子会社再編などによる競争力強化。
昨年5月の新本社移転をきっかけとしたデジタル技術の強化、フリーアドレスの導入、成果へのコミットメントを念頭に置いた人事制度改定、グローバル次世代リーダー育成計画。
従業員向け株式報酬制度など。
今後の戦略
注力するのは「エネルギーソリューション」「ヘルスケア・ニュートリション」「マーケット・アジア」の3つ領域ということになっています。
エネルギーソリューションというのは、つまりは脱炭素を見据えたエネルギー転換、例えばバイオエタノール、バイオジェット、太陽光、風力、水素などのことになります。
ヘルスケアについては病院と先端デジタル技術の組み合わせを構築がメイン。
マーケット・アジアについては高い経済成長を実現しているアジア領域での消費者向けビジネスを行っていくということ、および今後も継続的に資源インフラの維持・拡大を実現していくということがその内容となっています。
まとめ
今期の三井物産の事業成績をまとめてみました。
確かにほぼ前年同期並みという底堅い強さがみられたものの、セグメント別にみていくと前年比-50%を超える大幅な減益となったセグメントも多く、ほぼ「金属資源」の安定さと、「化学品」「次世代・機能推進」の頑張りに支えられての決算だったことがわかります。
低炭素社会向けたエネルギー転換が迫られる中、今後は投資領域の選定などで非常に重要で難しい経営判断が迫られます。
資源で儲けている三井物産にとって、避けては通れない経営判断になってきます。
ただ、金属など底堅い事業を展開しているし、アフターコロナでの爆発力なども期待できると思います。